岡田斗司夫【高29期】 「貴族」だったはずが…

2010年06月30日(水)

著書『オタクはすでに死んでいる』

  アニメやマンガをはじめ、今や海外でも認知されるようになった日本の「オタク文化」。その擁護者であるオタク評論の第一人者、岡田斗司夫さんが、オタクに とって衝撃的ともいえる表題の本を出した。「自己否定だという反論から、その通りという意見まで賛否両論の声が多数。

でもこの本は、オタクの世界のことだけを書いたとは思わないで下さい」八〇年代に、アニメやゲームなどに熱中す る若者の呼称として登場したオタク。「根暗」など一時の負のイメージを変えようと、SFマニアでもあった岡田さんは、オタクに関する著作を発表し、東大で 「オタク文化論」ゼミを開くなどその地位向上に努めてきた。そんなオタクの教祖が、なぜ『オタク死亡宣告』を? きっかけは最近のオタクの若者に抱く違和 感だという。「新製品の発売を待つだけで楽に快楽を得ようとし、自分の好きなジャンルから少しでも外れると関心がない。消費するばかりの存在。かつてオタ クが共有した価値観は失われたのです」。岡田さん世代のオタクは、世間の多数派とは違う「好きなこと」を自分で掘り起こし、世間の目に対抗する知性と精神 力を備え、社会人生活も営んでいた。実は強い自負心と社会性を持つ「貴族」だったのだと。その変容の理由は「社会全体の変質にある」という。「経済成長と 勤勉な国民性のもとで咲いた花がオタク。経済が行き詰ると皆が大人になりたがらず、自分の気持ちが何より大事な私至上主義となり日本は変わった。本書は日 本人論でもある」。昨年は自身のダイエットをつづった新書が五十万部の大ヒット。オタク趣味や評論は続けるのかとの問いには、「オタク大陸は消え、評論も 意味を失ったが、文化(作品)は残った。今後は一人の趣味人として楽しみます」。 (新潮新書・七一四円)文・吉住琢二
【朝日新聞二〇〇 八年五月五日から転載】


 
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